北前船がもたらした金沢の食文化。油与商店では伝統的な商品に加え、「新しいぬか漬け」の開発も。
銭屋五兵衛が生まれ育った町、金沢市金石。当時は宮腰(みやのこし)という地名で、犀川河口に宮腰港を構え、ここを拠点に銭五の北前船は全国を航海したのです。港町から金沢城へと続く物資の輸送路が金石往還で、それが現在の金石街道。江戸時代、金石は重要な意味を持つ土地だったのです。銭五の北前船貿易がもたらした食文化は港町金石・大野に根付きました。代表的な味噌醤油の他、保存食としての魚の塩漬け・ぬか漬けの海産物製造が発達したのです。しかし、かつて20軒余りを数えた海産物製造店も時代の流れと共に姿を消し、今では金石北2丁目の油与商店ただ1軒になりました。
油与商店は創業300年余。江戸時代は灯りを点す油を売る商いをしていましたが、明治に入ると北前船がもたらした魚の保存食、塩漬けやぬか漬けを作る商売に転身しました。大正、昭和、平成へと時代が移りゆく中で同業者が姿を消す中、今もただ一軒残り伝統の食文化を守り続けています。店主の寺尾高明さんは、若い人達にもぬか漬けを食べて欲しいと3年前には新しい商品を開発しました。
猛毒を持つふぐの卵巣は、塩やぬかに漬け込むこと3年で毒が抜けて食べられるようになります。何故毒が抜けるのかは科学的にも解明されておらず、ふぐの子糠漬けは石川県でしか製造を許可されていない「幻の珍味」なのです。お茶漬けなどが定番の食べ方ですが、女将の寺尾幸代さんが考案したのは塩味を和らげる冷奴と合わせるレシピ。その相性は抜群です。
油与商店は2015年、若い世代の口にも合う商品「金沢海鮮ぬか漬け」を開発しました。塩分を三分の一に抑え、海の幸の鮮度を失わない新しい珍味で、プレミアム石川ブランド製品に認定された逸品です。今回幸代さんは、甘えび・ばい貝・活たこ3種のぬか漬けを使ったおにぎりを作ってくれました。
実は【海と日本プロジェクトinいしかわ】は一昨年、銭屋五兵衛の足跡を辿るイベントを実施しました。寺尾幸代さんはその際、甘えびの海鮮ぬか漬けを使ったカナッペを振る舞ってくれたのです。今回はおにぎり。意外に塩味が薄い金沢海鮮ぬか漬けは、金沢港に水揚げされた新鮮な海の幸の食感を失わず、ご飯のお供にぴったり。金石から生まれた新しい食文化が、育ってゆくことを願います。
油与商店のぬか漬けは金石北の同店で購入出来る他、通信販売でも入手できますよ!
イベント名 | 北前船ゆかりの海産物を作り続ける油与商店 |
日程 | 2018年5月15日 取材 |
場所 | 金沢市金石地区 |