加賀地方を流れる手取川河口の右岸には、北前船で発展した美川漁港があります。
霊峰白山を源流として流れ、日本海に注ぐ手取川。その伏流水に恵まれて栄えた美川の町が、手取川河口の右岸にあります。特に伏流水が豊富に湧き出る安産川(やすまるがわ)沿いでは、町の所々に伏流水が自噴する水場があり、人々の生活を支えています。安産川の清流には絶滅危惧Ⅰ類に指定される淡水魚トミヨも棲息しています。この地はまた、幕末から明治にかけて北前船の寄港地として栄えた町でもあります。美川漁港の一帯にかけては、北前船貿易に端を発する海産物加工業が発展し、糠漬けや粕漬けの工場がひしめきます。時代の流れで今は6社になってしまいましたが、最盛期は40を超える海産物加工業者が存在したと言います。手取川が注ぐ日本海の海底にも伏流水は噴き出し、そこに魚が集まってくるようで、白山〜手取川〜日本海とつながる自然環境が豊かな水産資源を育んでいるわけです。美川漁港に水揚げされた魚を捌く海産物加工業にとっても、豊富に湧き出る伏流水は大変な恵みをもたらしてきました。しかし昨年発生した白山麓の斜面崩落が手取川の長期にわたる濁りにつながり、貴重な資源である伏流水の減少をも招いています。私たちの暮らしが自然から大きな恵みを受けており、その環境の変化が暮らしに影響を与えることを、実感します。
8月13日、美川漁港に隣接する「あら与」の水産加工場を取材しました。この工場には1年から1年半にわたって漬け込まれるイワシの糠漬けの樽が並んでます。魚を捌く水産加工に不可欠なのが水。「あら与」の工場には手取川のきれいな伏流水が絶えず汲み上げられています。